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川辺駿、磐田で残した103試合の軌跡。名波ジュビロでの3年経て「完成形」へ(フットボールチャンネル)

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川辺駿、磐田で残した103試合の軌跡。名波ジュビロでの3年経て「完成形」へ

2018シーズンよりジュビロ磐田からサンフレッチェ広島へ復帰することが決まったMF川辺駿【写真:Getty Images】

 2015年からスタートした磐田への期限付き移籍は、異例とも言える3年に渡った。ジュビロ磐田、サンフレッチェ広島両クラブからの発表の通り、川辺駿は来シーズンから広島でプレーすることになる。生まれ育ったクラブにいても成長はできただろう。だが、サックスブルーで過ごしたからこそ得たものもあった。『磐田の川辺駿』はいかにして、自身の価値を高めていったのだろうか。(取材・文:青木務)

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川辺駿、磐田で残した103試合の軌跡。名波ジュビロでの3年経て「完成形」へ

ジュビロ磐田の名波浩監督【写真:Getty Images】

●「アイツがここでやりたいとなったら、いつでもこっちはウェルカムだから」

 ジュビロ磐田の選手として迎える公式戦103試合目だった。明治安田生命J1リーグ第34節・鹿島アントラーズ戦、川辺駿は溢れる想いをヤマハスタジアムのピッチに全て放出した。序盤からフルスロットルで駆け回り、ボールに食らいついた。チャンスと見るや相手ゴール前へ駆け、何かを起こそうとした。

「アイツ涙流しながら出て行ったんだよ。まあ、感極まる気持ちもわかるし、思い入れも強いけどね」

 名波浩監督は暖かな表情で明かしている。これが磐田でのラストゲーム。そんな思いで川辺はこの一戦に臨んだのだろう。攻守の切り替えは恐ろしく速く、ボールを刈る意欲もいつも以上に高かった。前半、鹿島を圧倒した磐田だが、強い決意と集中力を体現した川辺がチームをけん引したといっても過言ではない。

 川辺はこれまで、『90分の中で何ができるか』に重点を置いてプレーしてきた。「守備をしたから勝てるとは思っていないし、攻撃にどれだけ力を使えるかだと思う」と言う。もちろん、課されたタスクを疎かにするわけではなく、チームの勝利のために自分が何をすべきかを考えている。試合状況に応じて、その場その場で最善の判断を導き出せるのが川辺という選手だ。

 だが、誤解を恐れずに言えば、鹿島戦の川辺はいい意味で何も考えていなかった。試合開始のホイッスルが鳴った瞬間から、なりふり構わぬ姿勢で向かって行く。球際のバトルも厭わず、率先して長い距離を走ってスペースを埋めた。かと思えばカウンターでスピードアップし、相手を出し抜く突破からシュートに持ち込んだ。1分1秒も無駄にしない、そんな鬼気迫るファイトを見せたのだった。

 90分間ピッチに立つつもりはなかったのかもしれない。時間の長さより、どれだけ濃密に戦えるかを優先したように見えた。「交代する7分くらい前から足がつっていた」と名波監督が話したように、ベンチに退く時は力を使いきっていた。

「まあ、人間なら借りているものはしっかり返さないと。またアイツがここでやりたいとなったら、いつでもこっちはウェルカムだから。半分水色を着ていると思えば、ね」

 川辺を出迎えた指揮官は、右手を差し出すと力強く抱きしめた。その腕の中で、22歳の若者は何を思っただろう。 

●今夏に覚醒。中村俊輔との関係性

 実はこの3年で、名波監督は何度か川辺を叱責している。今シーズンもある試合の前半で緩慢なプレーを見せた背番号40に対し、ハーフタイムに「過去最高くらい」の雷を落としたという。

 だが季節が春から夏へと向かう頃、変化が起き始めた。特に中村俊輔との関係性が整理されたことで迷いのようなものが消え、自身の武器を遺憾なく発揮するようになった。

 1月のチーム始動からしばらく、名波監督はボール回しなどのメニューで2人を同じ組に入れなかった。一緒にプレーすることで互いの特徴を把握し、コンビネーションを醸成させるのは一つの手であり、近道だろう。だが、名波監督はあえてそれをしなかった。川辺が自発的に中村俊輔を観察し、そこで得られるものに期待していたからだ。

 天才レフティーも「名波さんの練習メニューでは僕と駿はあまり一緒になることもない」とした上で、こう続ける。

「試合になった時に、お互いにグラウンド上の距離が近すぎてもダメ。そういう距離感は保っている。(川辺は)サッカーIQが高いし、僕が言い過ぎても良くない。いいパスとか抜けた時とかだけ『ナイス』と褒めている。伸びる奴は勝手に伸びるので」

 時間は要したが、それが結実すると多くの場面で彼らがプレーで関わるようになった。7月のある日、名波監督はこう話している。

「駿は今、覚醒している。4月、5月くらいまで俊輔と駿が合わなかった。どこでどのタイミングで、というのがわからないから。それが徐々にわかってきた」

 2人のプレーイメージが共有され始める中、指揮官は川辺の変化を感じ取っていたようだ。

「駿は元々、自分で前を向きたいからパスを戻さない。だから出しても戻ってこないと思ったら(俊輔は)出さなくなるよね。ところが今は、俊輔が出したら駿は戻すようになってきている。しかもすぐ出てくるようになった。お互いの特徴をよく理解しあっているということ」

 試合中、2人の間をボールが行き来する場面が増え、直接的なパス交換だけでなく彼らの間に味方を経由することで、チャンスが生まれるシーンも多くなった。第5節・清水エスパルス戦、5-2で勝利した第19節・川崎フロンターレとのアウェイゲームでは、中村俊輔のパスを川又堅碁が巧く落として川辺がゴールを奪った。

 また、第16節・FC東京戦では齊藤和樹を挟んで抜け出した川辺が、スルーパスからアダイウトンの得点を演出した。この場面について名波監督はこう振り返っている。

「パスを出したらボールが戻ってくるという信頼のもとで出て行けているし、あのゴールも最初、俊輔から直接もらうつもりで動き出したと思う。でも俊輔が1個タメてから和樹を使ったことによって、より時間ができて駿がフリーでもらえた。

 俺がいつも言っているのは、入りすぎないようにと。前に行きたい奴は入りすぎちゃうから。入り過ぎてダメだと思った地点でボールをもらうでしょ。それだと相手を背負った状態になる。いい時の駿は前向きに運べる状態でもらう。その差は歴然だから。背負っていたらできることは限られるけど、ちょっと半身で受けたら視界が一気に広がる。その光景の明るさたるや」

 中村俊輔という圧倒的な存在を触媒に、川辺はプレーヤーとして一段上のステージに進んだと言えるだろう。

●見えないところで続けてきた努力

 攻撃面での質の高いプレーがクローズアップされるが、守備での成長も見逃せない。

 局面で激しく相手に挑めない場面は確かにあった。攻撃から守備への切り替えが遅れた時は、ムサエフの危機察知能力にも救われた。名波監督は何度か叱りつけ、過去には「『お前、国際試合に出たいんだよな? A代表に入りたいんだろ? だったらユニフォームを汚せ』」と説いたことがある。

 次の展開を予測する頭の回転と寄せの速さを活かしたボール奪取は、川辺に元々備わっていた能力でもある。死角から忍び寄って奪いきることに加え、今シーズンは互角の状況で体をぶつけても弾き飛ばされなくなった。

 今年から、チームの練習とは別に取り組んできたことがある。「まあ、影ながらやっているんですよ」と笑う川辺は、こんな話をしてくれた。

「個人的にトレーナーの人に見てもらうようになったんです。週に1回トレーニングしてもらって。3月の終わりくらいからずっとそれをやってきて、本当に成果しかない。今シーズンは最初から試合に絡んでいた中で、夏場以降も落ちずにできたのはそのおかげだと思う。ぶつかっても倒れなくなったり、いいプレーを継続してできるようになったので」

 シーズン中盤での覚醒、年間を通したパフォーマンスの維持は、見えないところで続けてきた努力の賜物だった。だが、理想像には到達していない。あらゆる面でレベルアップをした川辺だが、身につけたものをベースにさらなる発展を遂げるつもりだ。

●「無駄なシーズン、無駄な試合なんてなかった」

 今シーズンのリーグ戦で、川辺は得点・アシスト合計『10』を目標にしていた。最終的に4度ネットを揺らし、味方のゴールも5回演出した。惜しくもあと1点届かなかった。だからといって、目を見張る働きを見せた川辺の価値に傷がつくことはない。

 そんな22歳に期待をかけるのが中村俊輔だ。

「自信というか自覚が出てきて、体が勝手に動いているという感じ。それが確信になって、代表をもっと意識すると、もう一皮、二皮向けると思う。そういうところも見てみたい」

 広島から磐田に来た時、川辺はまだ19歳だった。「10代の終わりから20代前半という一番大事な時期に、プロとして当たり前のことを学べた」と、真剣な眼差しをこちらに向ける。

「広島にいても学べることはもちろんあったと思うし、ある程度選手が固まった強いチームの中で成長するというのも一つではある。でもそうじゃなくて、(J2からJ1へと)成長していくチームでプレーさせてもらえたので、良かったと思う。

 この3年間、無駄なシーズンなんてなかった。1年目はJ1に昇格しなきゃいけないプレッシャー、去年は残留のプレッシャーの中でプレーできた。今年は上位争いができて、無駄な試合というのも本当になかったし、それはチームとしても個人的にも非常にいいことだと思う」

 例えば広島はポゼッション主体のサッカーが染みついている。今シーズンは残留争いに巻き込まれたが、ボール保持力は降格の危機に瀕したチームのそれではなかった。一方で磐田はショートカウンターが主な武器だった。

 ボールを持ちながら少しずつ試合をコントロールできるようにもなったが、最も力を発揮した形は堅守速攻だ。広島とは異なるスタイルの中に身を置き、得たものは間違いなくある。サックスブルーでの日々に川辺は意味を見出している。

「確かにあまりボールは繋げなかったけど、そういうチームでプレーすることも必要だと思えた。自分の上をボールが行き来するサッカーもどこに行ってもあるわけで。

 どんな戦い方にも対応できると今は思っているし、フォーメーションやサッカーの内容、環境とか変わっても色々できると思うので。プロとして当たり前かもしれないけど、そういう部分がちゃんと身について、土台ができたんじゃないかなと」

●「まだ完成形じゃない」目指すものとは

 川辺自身、今シーズンの活躍に手応えを得ながら満足はしていない。「いい試合が多かったし、自分が活躍したなあと思う試合も頭に残っている。J1でこれだけできるんだなと。でも同時に、もっとできると感じた部分も多かった」と語ると、言葉に力がこもる。

「まだ自分のプレー的にも完成形じゃないと思うし、まだまだ成長できる。その成長角度をもっと上げていきたい。マークにつかれても関係なくプレーできる選手がいい選手だと思うので、これからもっとそういう選手になっていかないといけない」

『完成形』へのプロセスは見えている。あとは、その道を迷わず進むだけだ。

「やっぱりゴールとアシストが全てだと思うし、それはどこに行っても同じだと思う。どれだけボールを奪っても、パスを繋いでも、ゴールを取るべき選手が取らなきゃいけない。ゴールも決められる選手でありたい。『中盤で運動量豊富に』だけじゃなくて、自分のゴール前と相手のゴール前でどれだけ仕事ができるかが大事」

 国内最高峰ともいえる広島の下部組織で磨かれた原石は、サックスブルーでの武者修行を経て本格的に輝こうとしている。新監督を迎え再出発を図ろうとする古巣で、川辺駿が目覚しい活躍を見せた時、磐田で過ごした3シーズンの重要性と価値が改めて証明されるだろう。

(取材・文:青木務)

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